*** 野鳥の鳴き声を楽しもう No31 【君はだれ?】 ***
報告: 大井 智弘

はじめに
 6月下旬、日本野鳥の会埼玉IT委員会に鳥の声が録音されたメールが届いた。メールには「隣の公園から、歌うような綺麗な鳴き声の鳥がいました」とあった。今回は、送っていただいた貴重な録音を手掛かりに住宅街の公園から聞こえてきた鳥の声について考察していきたい。
 1 君はだれ?
最初に、貴重な音源を当会へ送っていただき本当にありがとうございました。感謝しております。早速その録音をここで聞いてみたい。街中に響く澄んだ鳴き声、しかし聞きなれない声。

【録音①】公園から聞こえてきた鳥の声  20秒
街中での鳴き声、かご脱けしたペットか? 次に録音の音量を若干上げて検証を試みた。

【録音②】①の音量をアップしたもの  17秒
ここまでくると耳慣れた方々ならもうおわかりになったことでしょう。私も最初は迷いましたが声の主は「ガビチョウ」のようである。
2 ガビチョウ(画眉鳥)スズメ目チメドリ科ガビチョウ属 全長:25cm
  ガビチョウは、本来は中国南部から東南アジア北部に分布する外来種である。中国では鳴き声の美しさから鳴き合わせもされてきた。日本へ渡来した最初の記録は江戸時代に輸入されたとのことである。 
 1970年代、ペットとして人気が高かったが、日本の住宅事情には鳴き声が大きいことがわざわいしてか人気が下降。そして1980年代に北九州地方で野生化が確認され、その後1990年代以降急速に分布を拡大して、神奈川、東京、山梨の県境辺りを中心に関東地方でも増え始めた。埼玉県には2000年前後に東京都方面から入ってきたようで、日本野鳥の会埼玉の調査部によるデータベースでも2000年に嵐山町で記録されたのを初めとして年々増加傾向にある。
 国立環境研究所の侵略生物データベースによると、ガビチョウの分布域は宮城、福島、千葉県を除く関東各都県、大阪、兵庫、鳥取、島根、山口、高知、鹿児島を除く九州各県となっている。また、『全国鳥類繁殖分布調査 2016-2020』では、1990年代と2016~2020年の調査結果を比較すると、ガビチョウは分布を拡大している鳥の第1位である。
【写真①】2021年3月 坂戸市
 2005年、日本の生態系を乱す心配がある「特定外来生物」に指定された。ガビチョウの分布拡大は今後の自然環境への影響が大きいと予想されている。
 次の図①は埼玉県でガビチョウと生息環境がかぶるウグイスの分布についてまとめたものである。

(図①) ガビチョウとウグイスの記録が報告されている5倍メッシュ
期間:2020 年~2021 年6月  〇 ガビチョウ  + ウグイス
※ 図は、探鳥会、野鳥情報、野鳥リポーターなど県内の全データを元にして日本野鳥の会埼玉の調査部が作成したものである

 図①で+はウグイスが確認された地域で、埼玉県内のほぼ全域で生息していることがわかる。+と○が重なっている地域ではガビチョウとウグイスの両者が確認された。ガビチョウとウグイスは生息環境が似ていて、ササ類や藪が生い茂っている環境を好む。県内でも今後ウグイスの生息状況に何らかの影響を及ぼすのではないかと懸念されている。
 もう一つわかることは、黄色でマーカーした+地域の県東部地域ではガビチョウの報告がないことから分布の拡大はおきていないことがわかる。理由は定かではないが今後の変化を注目していきたい。
 3 ガビチョウの鳴き声
 ガビチョウはヒヨドリと同じくらいの大きさで、尾が長い。全体に褐色で目の周りから後方に白い線のような模様がある。ササ類や藪の茂みの中にいて、地上を走り回る姿が見られる。
 鳴き声は大きな声で長時間複雑な節回しで一年中さえずる。オスだけでなくメスもさえずる。その声はクロツグミのさえずりと似ているが、クロツグミは張りのある声で短時間さえずるのに対してガビチョウのさえずりはまったりとして長く続く。また、ウグイスの谷渡りやコジュケイ、キビタキ、サンコウチョウの声をアレンジして鳴く。山中で鳴きまねの声を聞くとだまされることがある。 

【写真②】2021年3月 坂戸市
◎鳴き声
【録音③】2021年4月 北本市 さえずり  16秒
「ホイヨーホイヨ-、チュッピチュッ、ピュィーピュィー」などと大きな声で鳴く

【録音④】2020年9月 東京都奥高尾 地鳴き  24秒
「ビュービュービュー」と繰り返して鳴く

【録音⑤】2021年3月 東京都南高尾山稜 さえずり  45秒
高尾山中では他の鳥たちの声を遮るような大きな声で鳴いていた。
録音では最初にウグイスの声、所々にキビタキ風のフレーズも入っている様な気もするがどうでしょうか 笑
【動画】2021年3月 坂戸市  25秒

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