*** 野鳥の鳴き声を楽しもう No7 【カラス入門】 ***
報告: 大井 智弘

はじめに
 探鳥会に参加し始めた頃、よく声を掛けていただいたN氏から「カラスというカラスはいないよ、みんなガラスだ」と言われた。駆け出しの私にとってカラスとは、「都会でゴミを荒らして、カア、カアと鳴くのがカラス」であって、「みんなガラスだ」と言われてもまったく理解できなかった。
 『日本鳥類目録改訂第7版』のカラス科カラス属には、ごく希な迷鳥「ニシコクマルガラス」、冬鳥として農耕地に群れで見られる「ミヤマガラス」、冬鳥でミヤマガラスの群れの中に混ざることが多い「コクマルガラス」、少ない冬鳥で北海道以北、本州でも数回確認されたことがある「ワタリガラス」。そして、都会でふつうに見られる「ハシボソガラス」と「ハシブトガラス」の6種類が掲載されている。確かに「カラス」とは総称であって、すべてが「~ガラス」。カラスというカラスはいない。
 今回は、身近なカラス、「ハシボソガラス」と「ハシブトガラス」の鳴き声を紹介したい。

1 ハシボソガラス(嘴細鴉)スズメ目カラス科カラス属 全長:50cm
 漢字での表記からもわかるように「くちばしが細い」のがハシボソガラス。しかし、左の写真(2019年3月さいたま市)のようにくちばしが細いといってもかなり太く感じられるので、ぱっと見ではよくわからない場合が多い。
 図鑑等には、「くちばしの上面があまり湾曲していない」、「くちばしと額の境に段差がない」とかあるが、やはり識別で一番わかりやすいのは鳴き声とその動作である。次の動画で確認してもらいたい。
 動画①:2020年6月 さいたま市  13秒
 チェックポイントは、鳴きながらお辞儀をする姿勢、濁った「ガァー」という声、お尻を振り振りして「モンローウォーク(古い)」のように歩く様子。
 動画②:2020年6月 さいたま市  14秒
 横からのアングルで「くちばしが細く、真っすぐで、額の境に段差がない」点と、地上をすたすた歩いて餌を探しているハシボソガラスの様子。街中ですたすた歩いていたら、ほぼハシボソガラスと思って間違いない。
鳴き声:「ガア、ガア」「ガァー、ガァー」「ガワー、ガワー」
 録音:2020年5月 さいたま市  13秒 近づいた私に対して威嚇してきた時の鳴き声
2 ハシブトガラス(嘴太鴉)スズメ目カラス科カラス属 全長:57cm
 ハシブトガラスについては、英名から考えるとわかりやすい。「Jungle Crow」とあれば、もともとは密林のカラスであり生息地が森林であることに由来している。また、「Large-billed Crow」ともあるように、「くちばしが大きく湾曲し額が盛り上がっている」のが特徴である。
 ハシブトガラスは、ハシボソガラスのように地面にいることは少なく、地上で餌を採る時も木の高いところからねらいを定めて降りてきて目的を果たすと、さっとまた高い所に戻ってしまう傾向がある。地上では主に「ホッピング」(両足をそろえて跳ねるように歩く)で移動する。

写真①:2018年2月 さいたま市

写真②:2017年11月 さいたま市
 鳴き声:澄んだ大きな声で「カア、カア」「アー、アー」と鳴く
  録音①:2020年6月 埼玉県北本市  25秒  MP3 ハシブトガラス1

  録音②:2020年6月 埼玉県北本市  10秒  MP3 ハシブトガラス2

※ ハシブトガラスとハシボソガラスの識別については下記の「東京都環境局」のサイトが面白い。
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/crow/difference.html
3 幼鳥の鳴き声
 繁殖期のハシブトガラスは、人への威嚇、攻撃をしてくることがある。私も先日、後頭部の方から両足で頭をキックされた。その場を離れようと道路を渡ると、今度は後ろから耳元をかすめるように飛ばれた。いきなり襲ってきたような気がしたのだが、後日、その場を見回してみると鉄塔に巣があった。私が彼らの気に入らない距離に入り込んだらしい。ハシブトガラスとも今はやりのソーシャル・ディスタンス(Social distance)をキープする必要があるようだ(笑)。 
   写真①:2020年6月 東京都練馬区石神井 ハシブトガラスの幼鳥

 鳴き声:ハシブトガラスの幼鳥が「ウンガー、ウンガー」と親に餌をねだる。
  録音:2019年6月 埼玉県北本市  15秒  MP3ハシブトガラス若鳥
  写真②:2020年5月 さいたま市(by H.Ohi)ハシボソガラスの巣(今年は使われていない)
 ハシボソガラスとハシブトガラスでは繁殖開始時期に違いがあり、ハシボソガラスは3月中旬から7月、新緑で葉に隠れる前から営巣するので見つけやすい。
 ハシブトガラスは、少し遅れて4月中旬から8月が多い。高くて込み入った樹林を好み針葉樹での営巣が多いとのことだ。
 住宅街や都市公園で見られる巣は、木の枝やハンガー(針金でできたクリーニング屋からついてくるやつ)を組み合わせて作られている。その他ビニール紐なども写真では見られる。
 一度、ドローンで上から覗いてみたい(笑)。
※カラスの繁殖については、「NPO法人札幌カラス研究会」のサイトがわかりやすい。
http://www13.plala.or.jp/crow-sapporo/couple.html

動画:2020年6月 埼玉県草加市  65秒 (by H.Ohi)
 ハシボソガラスの幼鳥の鳴き声に注目、まだお辞儀をしないで鳴いていた。
 最後に赤い口の中を見せてくれた。

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