*** 下を向いて歩こう♪  - 私の羽日記(抄)- ***
近藤龍哉

10月9日(金曜日)雨
 昨日、Eさんから電話があり、ある人がツミ(らしい)の死体を拾い、誰か必要とする人を探しているがどうですか、と照会があった。ツミなんて、そんなチャンスはめったにない。さっそくその人の電話番号を教えていただいて連絡を取った。すると、ツミと見たのは間違いで、どうやらツツドリのようだがと訂正があり、それでもいるかと聞かれた。ツツドリの羽はすでに持っている*1ものの、丸ごとというと話は別だ。もちろんと答えて、さっそく今日、その方(以下Mさんとお呼びする)の渋谷の職場に受け取りに行くことになった。

 雨の中、久しぶりの東京行きだ。コロナ騒ぎが始まってから、電車で東京に出ることなどしたことがない。二か月に一度の東京の病院への通院も、三か月に一度にしてもらい、車で行くことにしている。少し躊躇もあったが、こんな機会をみすみす逃すわけにはいかない。都内での移動の便を考えて、電車を使うことにした。

 移動というのは、そのあと都庁へ行く必要があるからだ。実は昨日、ツミの死体と聞いた瞬間、先日ヤマドリの剥製をお願したばかりのU氏に電話して訳を話し、東京で受け取るから、そこから直接宅急便で送りたいと申し入れた。実は埼玉も千葉も栃木も最近は拾得届の証明書の類は発行していない。それらの地域で拾得したものについては剥製業者も書類の提出は求めない。東京もてっきり同じだと思い込んでいた。だがU氏から、東京都に電話して確認してください、と念を押され、すぐ問い合わせてみると、これが面倒なことに、拾った本人が実物をもって東京都庁の環境局へ届け出てください、というものだった。

 拾った方とは面識もない。そんな人に鳥の死体をもって都庁に行って届け出をしてくださいとは言えないが、というと、私が代理となって届けることができると教えてくれた。なるほど、その手があるのか。その上、書類の様式をメール添付で送ってくれた。親切に書き方の見本までつけて。書類を書くだけだったらお願いできそうだ。

 Mさんは、職場の地下の冷凍庫で保存してくれていた。ちょうどいい大きさの丈夫なボール箱に、タオルに包まれてツツドリは眠っていた。傷はないようだし、病気という感じではない。聞けば、大きなマンションの傍の道路に落ちていたというから、ガラス窓に衝突した可能性もある。大切に扱ってくれていることに感謝しながらも、これからの手続きに便利なように、それらをお返しし、用意したものに包みかえてカバンに入れた。

 それから、東京都の必要な書類、「へい死鳥獣拾得届」と「申立書」を書いてもらった。「へい死」というのは、漢字にするなら「斃死」で、人間なら行倒れのことを指す言葉だが、鳥獣の場合は、捕殺したものでないことをいう言葉らしい。他の自治体も同じ用語を使っている。「申立書」は、法律用語の響きがあるが、出会うのは初めてだ。代理人を立てることから必要なのか、お役所に本人の言い分を伝えるという意味だろう。内容は、ウソではありません、ウソだったら罰せられても構いませんという趣旨のようだ。Mさんにその場で書き込んでもらい、それを預かって辞去した。Mさんは元埼玉の会員であった縁からEさんに連絡を取ってくれたとのことだった。本当にありがたく、お礼の言いようもない。

 渋谷から都庁へ。すこし元気も出て、雨の中タクシーも使わず、電車とバスを乗り継いだ。コロナ禍の都庁の厳重な管理体制など興味深く体験しながら、第二庁舎19階の環境局の担当部署を訪ね届け出をした。代理人届のようなものはなく、身分を証明するために運転免許証を提示しただけ。するとその場ですぐ実物を鑑定し撮影し、すぐに証明書(拾得届に役所の受理印を押したもの)を発行してくれた。これまで地方の出張所への届け出の経験とは違う、東京都の中央集中の効率のいいスピード処理に感心した。その場ですべて完了。寄り道もせず午前中に帰宅、午後には冷凍便でU氏に送れた。ところが、ことの順調な運びに落とし穴があった。うかつなことに、計測も計量もせず、一枚の写真も撮らなかったことに、送ってしまってから気が付いた。残念!こんな失敗は初めてだ。

1 以前ツツドリの羽をまとめて拾ったことがある。一度は10月15日に渡良瀬遊水地の旧谷中村で、もう一度は10月30日に、茨城県菅生沼の自然博物館対岸である。どちらも猛禽の食痕のようでまとまって落ちていた。他にKさんから頂いたものは、10月28日に熊谷市別府沼公園で拾われたとのこと、Nさんに頂いたものは、12月18日に川口市赤山の竹林前トンネル下で拾われたとのこと。いくつか共通点がある。一つは日時が10月後半以降であること。食痕らしきこと。尾羽が多いこと。換羽中の羽(羽鞘が残っているもの)が混じっていること(ただし2件のみ)。いずれも遅れて渡る個体が猛禽にやられたのではないかと推測する。

写真1 ツツドリの羽 私のコレクション・ファイルから
 ① 2011/10/30 茨城県菅生沼ミュージアムパーク自然博物館対岸
 ② 2016/10/15 渡良瀬遊水地旧谷中村
 ③ 2019/10/28 熊谷市別府沼公園 Kさん採集
 ④ 2019/12/18 川口市赤山の竹林前トンネル下 Nさん採集


写真2 拾得届・証明書と申 立書の様式(東京都)
拾得届
申立書
10月18日(日曜日)戸隠探鳥会二日目
 コロナ対策のため3月以降すべての探鳥会が中止になっていたが、この探鳥会がその再開の口火を切る探鳥会となった。これまでとは異なる10人限定の予約制という新スタイルの探鳥会として。宿も新しくT旅館にお世話になることになった。長らくお世話になって来たO旅館には、5月が最後の探鳥会となるはずだったが、残念ながらそれもコロナ回避のため中止となってしまったのだった。

 新しい方式で、事故なく、そして感染者を出さず、参加者が参加してよかったと思える探鳥会にすること、これがリーダーはじめ参加者みんなの共通の思いだ。

 一日目の昨日は午前中雨で、しかたなく宝光社周辺を散策、持参のお弁当も外では食べられず宿の広間を借りて食べた。午後になって、なんとか雨も上がり、戸隠森林植物園へ。開始早々、幸先よくアカハラに出会うものの、その後はマスク着用のためメガネは曇るし、いつもより1週間早いせいか鳥の出も渋くて、いささか物足りなさが残った。まあ、自然が相手だ、こんなこともあるさ。

 今朝は雨も上がって、上々の天気。宿の車で昨日は行けなかった鏡池まで送ってもらった。紅葉は始まったばかりだが、鏡池は文字通り波一つなく、戸隠の山を映して美しかった。Go Toキャンペーンとやらの影響か(我々もその恩恵に浴したが)、そこだけいつもより一般観光客が多い。対照的に静かな森林植物園内を歩いて随神門へ。随神門から参道あたりも大勢の観光客でにぎわっている。木道ではお目当てのムギマキ(♂♀)と出会えた。参道入口の大鳥居の近くでも、ムギマキを観察できた。後はもう一つのお目当てであるマミチャジナイだが…

 昼は、例年どおりキャンプ場に移動してのお弁当。ここのツルマサキではまじかにマミチャを見られたこともある。食事も終わって、いよいよ今回のラストコースの始まり。行く手にカメラマンが3人待ち構えている。さっきまでムギマキが出ていたらしい。さて、どうする。一緒にしばらく待つか。リーダーのHさんは、立ち止まらずに進む決断をした。この後、マミチャにこそ会えなかったが、ムギマキはもちろんエゾビタキ、アトリ、ミソサザイ、キセキレイなどが次々に見られる幸運のフィナーレとなった。Hさんの絶妙のコース取りのお蔭だ。

 お蔭といえば、私はこのフィナーレの直前、バンガローの傍の枯れ木の下で羽を一枚見つけた。拾い上げて整えてみると、アオゲラの次列風切りS1だった。Lucky! ここで拾うのは初めてだし、私には幸運の予兆を知らせる羽*1のような気がした。どうかこの後2週間、参加者から感染者が出ることなく過ぎますように。

1 換羽により抜け落ちた羽に巡り合うことはそう多くはない。偶然の出会いと思えるうえに、それがこのうえなく美しい。光を当てて拡大することをお勧めする。幸運を実感しますよ。
写真  戸隠キャンプ場で拾ったアオゲラの次列風切りとその一部拡大(羽枝が緑色に発光して見える)

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