*** 鳥獣保護管理員の落書き帳 ***

 鳥獣保護員・エトロフ小林の 『落書き帳』 第16回
ある参道の事件簿~ヒナが多すぎる ②

ごきげんよう。エトロフです。

 この夏、ある参道の並木道で営巣したツミの巣で3個の卵から5羽のヒナが孵化したというミステリー。今回は、迷探偵エトロフが汚泥色の脳細胞を総動員して、謎解きに挑みます。

① そもそも卵は、ほんとうに3つだったのか?
 卵を見ているのは、並木の選定をしていた作業員だけです。もちろん作業中なので証拠写真はありません。「見間違えた」という可能性はあります。それもウズラの卵のような斑点のある卵がゴチャゴチャした巣材の中にあったら、個数を間違えることもあるね、と思って、ツミの卵の画像を調べたところ…ニワトリの卵みたいでした。

 個数が7個や8個の場合、チラ見だけでは正確な数がわからないことがあるかもしれません。しかし3個を4個や5個と間違えることは、まず、ないでしょう。

あとから追加して卵を産んだのでは? という可能性は、ヒナたちの成鳥の様子から否定できます。

② 1個の卵から黄身二つのラッキー目玉焼き♪ みたいな?
 ないよね~と思いつつ、いちおうググってみました。「黄身二つ ニワトリ以外」とか、そんな感じで。 調べているうちに、Googleに「オーケー、エトロフ! 黄身二つの前に、キミの常識がまともかどうか、調べてみないかい?」と言われているような気分になってきて…やめました。
 
 ちなみにニワトリの「黄身二つ」ですが、産卵を始めて間もない若鶏に起こる現象で、まだ排卵機能が安定していないからだそうです。また黄身二つの卵から2羽のヒヨコが孵化することはまず、ないそうです。これが分かっただけでも、ググった甲斐がありました。

 ところで排卵機能が安定していないことが黄身二つの原因だとしたら、野生の鳥でもありうるかもしれません。でも、まず育たないでしょうね。まして、3個中2個が黄身二つで、それがちゃんと孵化した?・・・ないよね~

③ 巣から落ちたヒナは、ほんとうにツミだったのか?
 次に、死んでしまったヒナたちに疑いの目を向けてみましょう。

 まず第一の悲劇の犠牲者について。「孵化したばかりのヒナが巣から落ちて、車に轢かれてしまった」という証言がありますが、落ち着いて考えると、この証言、けっこう怪しいのです。孵化したばかりのヒナは、まず巣から落ちません。孵化して間もないのに、巣の中心部から縁まで移動するということが、そもそも考えにくい。

 さらに、車に轢かれてしまったのだから、ご遺体がかなり損傷していたと思われます。何の鳥だったのかも判定できなかったのではないでしょうか? 「孵化したばかり」という証言は、この鳥が小さかったことを示しています。ということは、轢かれた鳥は、親鳥が餌として捕まえた小鳥だった可能性があります。巣の近くまで運んできたものの、カラスに邪魔されたなどの原因で、落としてしまったのでしょう。

 続いて第二の悲劇。こちらの犠牲者は「白い羽毛に覆われていた」という確かな証言があり、ツミである可能性は否定できません…依然として、ヒナが一羽多いのです。
 
④ 「第二の女」浮上
 重要な証言がありました。第二の悲劇の翌日、8月6日早朝のことです。この日も「世界一可愛いビーグル犬のポピー」に連れられて散歩していたAさんが、参道のケヤキの間を猛烈な勢いで3羽のツミが飛び回っているのを見た、というのです。ここの巣の主のペアに加え、ツミの雌がもう1羽いたと言います。

 この3羽は何をしていたのだろう?

 森羅万象のすべてを知りえない私たちは時々、いや頻繁に、「固定観念」「先入観」「イメージ」などで物事を考えたり判断したりしてしまいます。

 「ツミがヒナに与える餌はおもにスズメ、シジュウカラなどの小鳥類がほとんど。狩りの方法は飛んでいるターゲットにアタックする」 多くの鳥見人が、こういうイメージを持っていると思います。

 先日のササゴイ事件で、オオタカが巣にいるササゴイのヒナをさらったのを見て、ちょっと驚きました。オオタカって、巣にいる鳥をねらうこともあるんだな…と。

 オオタカがやるなら、ツミもやるかもしれません。

 オオタカにしてもツミにしても、彼らが狙える巣は、スズメやシジュウカラのように樹洞に作るタイプではなく、木の上に枝などを組み合わせて作るタイプに限られるでしょう。 ところで、ツミの巣もこのタイプですね。 ということは…

<このツミ夫婦は、別のツミの巣を襲って、ヒナを餌として運んでいたのでは!?>

 こう考えると、8月5日の犠牲者の説明ができます。おそらく近くのツミの巣からヒナをさらってきたものの、落としてしまったのでしょう。犠牲者の母親はAさんの証言に出てきた雌のツミ=<第二の女>だったのではないでしょうか?ヒナを獲られた母親が追いかけてきて、ひと悶着あった末に、ヒナを落としてしまったのかもしれません。

 さらに8月6日早朝、ツミ夫婦のどちらかが性懲りもなく、また<第二の女>の巣にいるヒナを狙ったが失敗。怒り狂った<第二の女>がツミ夫婦宅に殴り込みをかけた。ポピーとAさんが目撃したのは、その修羅場だったのでは?

ツミのヒナがツミのヒナの餌にされていた、と考えれば、いろいろ説明がつくのですが、やはり想像の域を出ません。この事件も証明ができないのです。

 できることなら船越さんのように、荒波が打ち砕ける断崖にツミ夫婦と<第二の女>を追い詰めて、洗いざらい話してもらって、すっきりラスト、といきたいところですが…


幾つかの解けない謎を残して、参道から、夏が立ち去ってゆきました。
 写真提供:大谷泰久

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